シトロエンには伝統的に多人数乗りモデルが存在
戦前から現在に至るまで、シトロエンは伝統的に3列シート・多人数乗りのピープルムーバーを生み続けてきた。
C4、トラクシオン・アヴァン、DS/ID、そしてCXに設定されていた「ファミリアール」、最近ではC4ピカソ(現:C4スペースツアラー)などが、その代表格といえる。最前列にはパパママが、2列目もしくは最後列には子供たちやおじいちゃんおばあちゃんが座り、家族全員で移動することができた。
実はシトロエンにはもうひとつ、3列シートのピープルムーバーがある。それが、「スペースツアラー」だ。2016年のジュネーブショーで登場したこのモデルは、シトロエンと関係が深いプジョーやオペル、トヨタに兄弟車を持つLサイズミニバンで、ゆとりある車体は乗員全員がゆったり・快適に過ごせる室内空間を備える本格的な8人乗り大型MPVである。
期待を裏切らない「シトロエン・ライド」
陸続きで国が境を接する欧州では、移動には長時間・長距離を要することが多い。そこで欧州メーカーのクルマは、車格やサイズの大小、乗用・商用・トラック・バスに関係なく、長距離を走り切っても疲れを少なくするためのフラットな乗り心地、座り続けても体に負担をかけないシートを備えている。シトロエンを例にとれば、簡潔な作りでは最右翼ともいえるあのシトロエン2CVでさえも、乗り心地・座り心地にかけては驚異的で、最新モデルの小型車でも、ライバルたちに対して大きなアドバンテージを持っているほどだ。
そのため、ミニバンにも、優れたそれらの要素が求められるのだが、乗り心地の良さがアイデンティティのひとつであるシトロエンが作るミニバン……となると、否が応でも期待が高まる。特に、いまオーナーの人や、これまでに所有したことがある人には、大いに気になるところだ。
本革で丁寧に仕立てられた大柄なシートは、しっかりと設えられており、座り心地も好ましい。車種によっては、見た目の良さに比して座った時に腰やお尻、大腿部に違和感を感じるミニバンの後席シートも少なくないが、欧州車かつシトロエンの作ったスペースツアラーの後席は、さすがの出来と言ってよい。疎かになりがちな3列目のシート自体の作りや座り心地も、2列目となんら変わりがなかったことも記しておきたい。
車体サイズを感じさせない取り回し、性能数値では想像できないほどの力強い加速
スペースツアラーのボディサイズは、全長約5m、全幅1.9mほどあり、いわゆる日本のLサイズミニバンよりもひとまわり大きい。このサイズは、たしかに乗り込む前に大きく感じるし、乗り込んでも着座位置が高く、慣れない感覚を覚えるかもしれない。ところが走り出してみると、思った以上に切れるステアリング、四角い車体と高いアイポイントによって車両感覚が掴みやすい。狭い道でのすれ違いも、ドアミラーが左側の路肩をしっかりと映し出してくれるので、寄せるのも容易である。もちろん運転には慣れが必要だが、大きなクルマであることを考えると、その乗りやすさには驚くかもしれない。
そして、スペースツアラーで病み付きになりそうなのが、加速力だ。定評あるシトロエンのディーゼルターボ「HDi」エンジンは、2ℓからなんと180ps・400Nm(40.8kgm)の最高出力と最大トルクを発生。V8・4ℓクラスに匹敵する豊かなトルクと、アイシン製8速オートマチックによるスムーズな加速は、高回転で回る高性能エンジンとは逆の快感すら感じさせる。さらにアクセルを多めに踏み込むと、背中を蹴られたような加速をスペースツアラーに与えてくれる。サイズからは想像できないほどに力強いのだ。ディーゼルのため燃費効率・経済性にも優れているのは言うまでもない。ディーゼル特有の振動や音はしっかりと遮断され、乗員はわずかに感じるのみ。ディーゼルは遅くて振動する、という考えが古いことを思い知らされる。
ミニバンであり、広くて快適なサルーンでもあるスペースツアラー
高くて広い室内、多人数が乗車できること、高い積載性など、ミニバンには特有の美点が多い。しかしそもそも論として、これを読まれている人の中には、「ミニバンにはあまり興味がない」という声は多いかもしれない。とくに、欧州車に長年乗っていると、サルーンやSUVで十分、多人数乗りは不要、という考え方もあるだろう。しかし、まずスペースツアラーに対しては、その考え方を少し弱めてみてほしい。
というのも、スペースツアラーはもはやミニバンではなく、背が高いサルーンなのではないか、と思ったのだ。たしかに外観や機能面ではミニバンに相違ない。でも、サルーンのような快適なキャビンとシート、思いの外乗りやすい運転感覚、素晴らしいハンドリングと移動の快適性は、スペースツアラーをサルーンの替わりに所有しても良い、と思わせるに十分だったのだ。
また、人とは違うミニバンを探している人や、次期マイカーとしてミニバンを探している人、輸入車のミニバンを探している人、ビジネス用の送迎用車両を探している人にも、パセンジャー7人が心地よく移動できる広さと、高級サルーンのような快適性を持つスペースツアラーを強くお薦めできる。ピープルムーバーとしての性能に優れているため、ビジネスユースでも大活躍するだろう。3列目の後ろにもラゲッジスペースを残しているため、送迎用車両としてのポテンシャルが高いのだ。モダンで落ち着きのあるエクステリアも、ワンランク上のビジネスカーという印象を顧客にもたらしてくれるはずである。
スペースツアラーは現代の「家族車」 “ファミリアール”
スペースツアラーの後席は、国産ミニバンのように器用に跳ね上げたり折りたたむことはできないが、そのかわりにがっしりとしたつくり、クッション・背もたれの厚み、素晴らしい座り心地を持っている。多人数乗車する機会がないので3列シートのミニバンは……というユーザーなら、後席シートは取り外すこともできるため、3列目があった空間を巨大なラゲッジにしてアウトドアを楽しんだり、2列目を外して3列目を「2列目の後席」として用いて、巨大な足元空間を誇る「広い5人乗り」として使うこともできるだろう。むろん、いざというときに人を乗せることができる3列シートのアドバンテージは大きいし、3世代家族同居のファミリーなら、全員が平等に快適なスペースツアラーは、大いに喜ばれる選択となろう。
そう考えた時、「スペースツアラーは、現代に蘇ったファミリアールである」と確信した。
だから、従来のシトロエンサルーンのユーザーで、その代替車や追加購入を考えている人がいるならば、スペースツアラーを検討してみる価値はあるのではないだろうか。C4と同じドアノブ、初代C5から継続して使われているステアリングコラムから生えたクルーズコントロールスイッチなども「シトロエンに乗っている」感を強くする。そして何よりもその乗り味に、シトロエンらしさを感じられるはずだ。スペースツアラーグリルのセンターと、ステアリングホイールのセンターに輝くダブルシェブロンのエンブレムは、伊達じゃないのである。
JAVEL竹村より
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Capacity 1997cc
Cylinders 4
Max power 180kw/3750rpm
Max torque 40,0Nm/2000rpm
Length 4956mm/width 1920mm/height 1890mm
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2018年1月1日
JAVEL Yoichi Takemura